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森川(記者)

本を売り、本を読む日々。
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散 漫 帖

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火怨 上・下(高橋克彦/講談社文庫)
 獣同然と蔑まれながらも、陸奥の地で平和に暮らしていた蝦夷だったが、その地で黄金が採掘されたことが彼らの運命を変えた。黄金を求めて陸奥を支配しようと戦いをしかけてくる朝廷側に、蝦夷の若武者アテルイとその仲間たちが立ち上がる。朝廷軍の前線基地である多賀城、伊治城を焼き討ちし、蝦夷の平和と誇りを取り戻すための長い戦いの幕は落とされた…
 高校時代、日本史の授業で先生がアテルイと征夷将軍・坂上田村麻呂との激戦の下りを熱心に語っていたのを今でも覚えているが、おそらくこの作品のことを話していたに違いない。読んだ今なら、熱く語っていた先生の気持ちもよく分かる。そんな気持ちになる作品だった。
 あくまでも歴史小説なので、全てが史実ではないだろう。正直、ここまで鮮やかに蝦夷軍が朝廷軍を打ち負かせたのか疑問を感じる。ツッコミどころはあるけれど、しかしそんなことはこの際どうだっていい! 何といっても面白いのだから。
 血気盛んで後先考えずに戦いに繰り出そうとする大胆な若武者・アテルイが、キレ者の策士・母礼や、凄腕の側近・飛良手、親父代わりとなる物部二風らと出会い、それまで対等な戦いなど不可能と思われていた朝廷軍と戦う希望を得て、少ない軍勢ながら次々と勝ち進んでいく前半は大興奮。そうはならないと分かっていても、「もしかしたらこのまま朝廷軍を撃ちまかせられるのではないか?」とすら思ってしまう。
 しかし、何度も戦さを続けるうちに、アテルイは苦悶に囚われるようになる。蝦夷たちはこの戦さが最後、と命を賭して戦っているのに対し、朝廷軍は大敗しても何度でも兵を徴収して戦えるだけの力がある。戦いに勝っても、数年ばかりの平穏しか手に入れられないようでは、結局はいずれ全ての蝦夷は滅ぼされるのではないか…。
 また、それまで蝦夷を獣としてしか見ていなかった朝廷軍に、蝦夷の立場に同情を寄せる知将・坂上田村麻呂が加わったことで、アテルイの内心はさらに揺れる。今度こそは本当に滅ぼされるかもしれないという危機感と、しかし彼とならば和議を結ぶことも出来るのではないかという希望、そして二十二年に及ぶ長き戦いの疲弊から、アテルイはある決断を下す。あの若武者が、蝦夷の行く末を案じてこのような決断を下すまでに成長したのかと思うと胸が熱くなる。
 下巻は途中までスタバで読んでいたが、「これ以上外で読むのは危険」と家に帰ったのは正解だった…最後は号泣した。

 印象に残っているのは、序盤でアテルイらを裏切り朝廷側に就こうとした飛良手を追ったアテルイが、飛良手に訴えるシーン。
「土地も大事なものであろうが、俺は蝦夷の心こそ守りたい。獣に落とされた後の蝦夷には、そもそも土地など要らぬ。国は土地ではない。暮らしている者の心にこそある」(P44)
 若いからこそ言えることなのかもしれないが、アテルイのこの純粋で強い姿勢に皆は着いていったのだろう。

 戦いのシーンが主で、もう少し蝦夷の文化に触れられていると良かったかもしれない。また、地元以外の人には馴染みのない地名が出てくるので、地図があると分かりやすかったと思う。それでも、ぐいぐい引き込む力強い物語だった。

Posted by pareidolie21
小説(国内) / 17:45 / comments(0) / -
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