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散 漫 帖本と映画と妄言と
白い果実(ジェフリー・フォード/国書刊行会)
2011.07.28 (Thu)
ぼくを忘れたスパイ 上・下(キース・トムスン/新潮文庫)
2010.10.12 (Tue)
競馬狂のチャーリーは、預金目当てで暫く会っていないアルツハイマー症の父ドラモンドを引き取ることにした。しかし、ドラモンドと行動を共にした途端、何者かによる尾行、そして自宅の爆発に見舞われる。一体、何が起こっているのか戸惑うチャーリーを更に戸惑わせるのは、ボケているはずの父が危機に見舞われる度に冷静で的確な判断でチャーリーを助けていること。父は何者なのか。だが、それを問う間もなく親子は次々謎の追っ手の攻撃を受ける… ドストエフスキイ後期短編集(福武文庫)
2010.06.27 (Sun)
ドストエフスキーが晩年ライフワークにしていた「作家の日記」に書かれた短編小説を収録した本。 古本市にてゲットしました。 小説になっているものもありますが、小説と随筆の中間みたいな話が多いです。それこそ一口噺風というか。あるいはネタ帳というか。 「おかしな男の夢」は既に読んでいましたが、SFか? 世の中に絶望して自殺しようとした男が見た、不思議な夢の話です。天使のような存在に連れられて宇宙に出たら、地球とうり二つの、汚れを知らぬ人々が住む星に辿りつく…ユートピアものかと思いきや、後半はどんどん地獄絵図に。デストピアものの先取りとも読める。 研究書で時々取り上げられている「百姓マレイ」も載っています。『死の家の記録』番外編。しかし、この作家のカオスな状況の描写の上手さは何なんだろう。 酔どれ列車、モスクワ発ペトゥシキ行(ヴェネディクト・エロフェーエフ/国書刊行会)
2010.06.27 (Sun)
苦痛に満ちたモスクワから、愛しい女と幼子の待つペトゥシキへ走る列車に揺られながら、ヴェーニャは飲んで飲んで飲んだくれ、酔いどれながらロシアの政治、宗教、文学、そして恋愛について語りまくる! 行きつく先は、天国のようなペトゥシキか、それとも… ソラリス(スタニスワフ・レム/国書刊行会)
2010.05.27 (Thu)
表面をほぼ海で覆われた惑星・ソラリス。星そのものが何らかの知性を持つとされ、研究ステーションが設けられたものの、数十年かけた研究でもその正体は謎であり、人々の関心も薄れつつあった。 そんな中、研究施設で何らかの異常事態が発生し、その調査に向かった心理学者ケルヴィン。彼が目にしたのは、荒廃した研究施設と半狂乱の研究者、そして若くして自殺した妻だった… タルコフスキー監督の映画『惑星ソラリス』は以前観ましたが、今回はレムの原作に挑戦。 内容は、思っていたより読みやすかったです。ただ、訳の文体はちょっと読みづらい…好みの問題だと思いますが。「!!!」や「!!?」がかなり頻繁に使われているのも新鮮(笑)。 映画が主人公と死んだ妻とのラブロマンスを通した「追憶」に焦点があてられていたのに対し、原作はソラリスという人間には理解出来ない存在をどう認識するか(というか、認識することは可能か)に焦点があてられています。なので、話の印象はかなり異なる。原作の方がハードでディープだ。あと何回か読みこまないと把握できそうにない。 何らかの思考・知性を持つ存在と対峙した際、否応なく関心を持ってしまうのが人間なのだろう。しかし、自分の身幅でしか世界を捉えられないのが人間の悲しい性。身幅以上の存在に対峙した時、人間はどのような反応を示すか…作中で延々と述べられる「ソラリス学」の無数の仮説は、結果的にソラリスが人間にとっていかに理解不可能な存在であるかを証明するものでしかないのが、皮肉である。 ケルヴィンが最後ソラリスに降り立ち、海に手を差し伸べるシーンは、上記のような理解の仕方に対する反論なのだろうか。 「私は見惚れ、茫然となって、近よりがたいと思われていた無為と無感動の領域へと降りていき、ますます強まっていく強烈な自己喪失の感覚の中でこの目の見えない液体の巨人と一体になった。まるで一切努力もせずに、言葉もなく、何も考えることなく、この巨人に対してすべてを許せるような境地だった」(P343) それにしても、「物思う海」ソラリスや、死んだ妻そっくりの「何者か」という設定が素晴らしい。ハードSFでありながら幻想的でもある不思議な世界観。あと、在りもしない「ソラリス学」についてさも在るかのように滔々と語るレムのホラっぷりもなかなかです。昔読んで挫折した『虚数』(未来に書かれているであろう本の序文だけ集めた本、という設定のメタ小説)にまた挑戦しようかな。 華氏451度(レイ・ブラッドベリ/ハヤカワ文庫)
2010.04.25 (Sun)
「面白い仕事さ。月曜には、エドナ・ミレーを焼く。水曜には、ホイットマン。金曜にはフォークナー。みんな焼いて、灰にしてしまう。」 本を読み、所持することが禁じられた近未来。主人公ガイ・モンターグの仕事は禁じられた本を焚書することだった。だがある夜、隣に住む少女と出会ったことで、彼は自分の仕事に疑問を持つようになる… 「何となく早川祭り」、第五弾。 ブラッドベリ作品は中学時代からの友人から、十年以上に渡って薦められていたものの、SF作品というので敬遠していた。 実際読んでみると、バリバリのハードSFではなく、近未来小説といった感じだった。リズムと情感溢れる文体で書かれているので、専門用語が飛び交うようなSFが苦手な人でもさくさく読めるかと。 こんな世の中になったら私のような人間にとっては拷問でしかない。職も失うし、下手したら逮捕されてしまう。 どんなにテレビやネットなどの視覚情報技術が発達し、それを介した娯楽が発展しようとも、本から得られるものを凌駕することはないだろう。書かれていることから書かれていないことに思いを巡らし、今まで思いもよらなかった世界へと連れて行ってくれる…物思う喜びを与えてくれるものが本である。テレビ室と小型ラジオで娯楽漬けになっていたモンターグも、自分の中に虚しさを見つけた時、物思うことを禁じられた世界と戦おうと、本を守るため奔走する。 ただ、この話は単に本や読書を賛美するだけのものではなく、読書する際に陥りやすい思考についても言及されていて、その辺も結構身につまされるものがある。モンターグが最後に街から古い農村に逃げ延びた時に受けた印象を描写したシーンを読むと、ホントに言いたいのは「本を読むのも良いけれど、実際に世界と触れ合う素晴らしさに敵うものはない」ということなのかなぁと思った。 大穴(ディック・フランシス/ハヤカワ文庫)
2010.04.13 (Tue)
元チャンピオン・ジョッキー、しかし落馬事故で左手の負傷し引退後は知り合いの調査会社で腐りかけていたシッド・ハレー。仕事中、腹に銃弾を食らったことが、彼の闘志に火を付けた。伝統ある競馬場の土地を巡る黒い陰謀に、屹然と挑む…競馬場を舞台にしたハードボイルド。 何となく早川祭り、第三弾。 以前とある書評家の講演会に行った際、その方がディック・フランシス作品を猛プッシュしていたので、何となく気になっていた。 ストーリー自体は、由緒正しい感じです。悪い奴はとことん悪く、善き人は最後報われる。ひねくれ者としてはもう一捻り欲しいなぁと思ってしまった。 とはいえ、キャラクターは中々良いです。主人公のシッド・ハレーにしても、タフ&クールでありながら、事故で大怪我を負った左手に対するコンプレックスをいつまで経っても克服できない弱さが絶妙に相まっていて、単に格好いいキャラでは収まらない。同じく事故で顔の半分に大怪我を負った女性とのやり取りが好きです(やきもきするけど)。あと、シッドの義父チャールズもいいなぁ。晩餐会のシーンでは「この人ホントはこの状況を楽しんでないか?」と思ったが。 とあるレビューにもあったけれど、騎士道精神が感じられる作品でした。同じくシッド・ハレーが主役の『利腕』もそのうち読もうかと。 そういえば古本屋でこの本を買った時、店のおばちゃんに「この人、最近亡くなったばかりよねぇ」と言われた。今月文庫化した『祝杯』が確か最後の作品だったかと思います。最近大御所が相次いで亡くなるので、熱心な読者でなくても何だか寂しい。 あなたに似た人(ロアルド・ダール/ハヤカワ文庫)
2010.04.04 (Sun)
ギャンブルに狂う人々、普通の人の中にある少し異常な欲望…ブラックユーモア漂う短編集。 「何となく早川祭り」第一弾。 柴田元幸氏がお薦めしていたような記憶があり、古本屋で安く売っていたので買ったもの。 短編十篇が収録されていますが、個人的には面白い作品とそうでない作品の差が激しかったです。 特に面白かったのは「味」と「南から来た男」。「味」は、美食家を自認する男が、招かれた先の晩餐会で当主に持ちかけられたワインの利き酒を巡る物語。これは読んでいて、「どうなる、どうなる!」と手に汗握りました。博打打ののっぴきならなさが存分に伝わってきます。 「南から来た男」は、有名な作品らしいですが幸い予備知識なしで読めました。これは怖い! でも何が怖いかは言えません、ネタバレするので。久し振りに「ギャー!」と叫んでしまったくらい怖いです。 地味ながら、「首」も結構好きです。狂気度ではダントツです。後引くブラックさが堪りません。 後の作品は、正直ピンと来ず…。なので、評価は若干低めです。しかし、どれもこれも読後微妙な気分になること請け合いなので、そういうものが好きな人にはお薦めです。 夜中に犬に起こった奇妙な出来事(マーク・ハッドン/早川書房)
2010.02.19 (Fri)
上記のような説明を読んでいたため、ミステリーものなのかと思っていたけどそうでもなかった。 しかし、クリストファーの視点から事件を見るとミステリー以外の何物でもないのだろう。周りの大人たちが何故合理的ではない行動を取るのか、その背後にある感情を彼は理解するのが難しいからだ。 ある程度の嘘、曖昧さ、適当さというのは上手く生きていく上で重要なものなのだろう。でも、クリストファーにはそれが出来ない。そのため、彼は周囲の人々が隠していた真実を残酷に白昼の下に晒してしまう。そしてそれは彼をも傷つける。 でも、クリストファーは魅力あるキャラクターに思えた。上手く生きるにはあまりに不器用だけれど、それと引き換えに目的をやり遂げる行動力、分かるまで考え続ける探究心で、困難を乗り越えていく。 印象的だった一文。 「素数とは人生のようなものだと思う。それはとても論理的なものだが、たとえ一生かけて考えてもその法則を見つけることはできない」(P26) |