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散 漫 帖本と映画と妄言と
火怨 上・下(高橋克彦/講談社文庫)
2013.02.15 (Fri)
獣同然と蔑まれながらも、陸奥の地で平和に暮らしていた蝦夷だったが、その地で黄金が採掘されたことが彼らの運命を変えた。黄金を求めて陸奥を支配しようと戦いをしかけてくる朝廷側に、蝦夷の若武者アテルイとその仲間たちが立ち上がる。朝廷軍の前線基地である多賀城、伊治城を焼き討ちし、蝦夷の平和と誇りを取り戻すための長い戦いの幕は落とされた…
静子の日常(井上荒野/中央公論新社)
2010.02.03 (Wed)
主人公、静子は七十を過ぎたおばあちゃんだが、可愛らしい見かけに反して、思い立ったらやってみる行動派だ。しかし、決して力まず、まぁやってみましょうというノリだ。そんな彼女の行動が、家族が抱えるモヤモヤを、それとは知らず解決してしまう。読んだ後は、少しスッキリした気分になる。 高熱隧道(吉村昭/新潮文庫)
2009.07.29 (Wed)
昭和11年に着工された黒部第三トンネル掘削工事は、ダイナマイトが自然発火する最高温度165度という高熱岩盤と、険しい渓谷が生み出す「ホウ雪崩」と呼ばれる現象により、四年間で三百人以上の犠牲者を出す難工事だった。恐怖に怯えながらも掘削作業に従事する人夫たちと、トンネル貫通に取りつかれた技師たち、そして過酷な労働環境を黙認した国の目論見が絡み合う、極限状況を描いた記録小説。 羆嵐(吉村昭/新潮文庫)
2009.07.26 (Sun)
北海道の冬、貧しい開拓地に突如出現した一頭の巨大な羆。二日間で六人が食い殺され、村人たちは恐慌状態に陥る。近隣の村人や警察官たちが銃を手に羆撃ちに立ち向かうが、獰猛かつ狡猾な羆の前にはなすすべもなかった…。大正時代に実際に起こった羆襲撃事件を描いた記録小説。 『破獄』に引き続き、吉村昭作品です。 表紙からして恐ろしいですが、内容も背筋が凍るほど恐ろしかったです。熊の出ない街中に住んでて良かったーと心底思った。 吉村氏特有の、感情を抑え事実を詳細にかつ端的に描写する文体はこの作品でも冴えており、まるで現場に居合わせたかのような気分になります。そのため、ひたすら羆の出現にヒヤヒヤしっぱなしでした。村人が羆に襲われるシーンなんかも、やはり淡々と描かれているため、かえって生々しく感じられます。セリフは少ないですが、言葉数の少なさが村人の恐怖心を物語っているようだし…。 何人寄ろうが自分たちは羆にとって餌でしかない、という記述が表すように、羆は人間にはどうすることも出来ない「自然」そのものなのだなぁと思うと同時に、人間がコントロール出来るものは所詮人間が作った物事に限られているのだなぁと改めて思い知らされます。 最終的に羆を撃ったのが、普段は粗暴で村人たちから疎まれている羆撃ちの老人というのも興味深いです。命懸けで熊を仕留める老人の姿は真のプロフェッショナル。でも、それ以外の時は村社会に適応出来ないならず者。村人に疎まれながらも畏怖される彼は、どちらかというと人よりも羆に近い存在なんじゃないか…人の掟ではなく自然の掟に従っているところが。などと考えると、史実を描きながらどこか寓話的な感じもする話でした。 この本を読んだら、野外でキャンプしようとは思わなくなりますね。ましてや北海道では…。事件が起きた村には、当時の様子を再現した小屋や記念館があるそうです。行ってみたいけど、怖くて行けそうにないです。 破獄(吉村昭/新潮文庫)
2009.07.19 (Sun)
話自体は昔テレビで見たり、ネットで概要を読んだりして知っているのですが、それでも面白くて一気読みでした。 四度の脱獄、しかも厳重監視の網走刑務所からも逃げ出した囚人佐久間にこそ、超人という呼び名はふさわしい。並はずれた体力と体質も凄いけど、執念と心理戦の駆け引きの巧みさはまさに超人。佐久間の内面が描かれていないだけに、得体のしれない感じが際立っています。 佐久間の脱獄劇の合間に、戦中から戦後の刑務所の実情が詳細に描かれていますが、それもまた濃密なエピソード満載で飽きさせません。看守の人手不足を補うために、囚人に看守代行を務めさせたり、南方の島での工事要因に囚人を使っていたり(その時の脱走事件がまた…凄い)、結構ムチャクチャです。 ちなみに、網走刑務所の博物館には逃走しようとしている佐久間のロウ人形が展示されているそうです。いつか、機会があれば行ってみたいかも(笑)。 また、緒方拳主演でドラマ化にもなっており、そちらもいつか観たいものです。 走れメロス (太宰治/新潮文庫)
2009.05.14 (Thu)
今年は太宰治生誕百周年で、書店でも色んなフェアが組まれています。
が、私は太宰が苦手なのだった。中学の時に『人間失格』を読んでどうも駄目で、以来太宰は素通りしてきた。 でも、毎日書棚で目にしているせいか、何となく気になってしまって手に取ってみました。 久し振りに読んだら、案外面白く読めました。冒頭の「ダス・ゲマイネ」の、捲し立てるような恋の告白に始まり、あっけない死に終わる流れが良いです。「女生徒」は、自分が女生徒と呼ばれる時分に読んだらきっと太宰にハマッてしまっていただろうなぁ…と思ったほど、あの当時の片付かないけれど切実な気持ちが描かれています。今は、正直少し距離があってハマるほどではなかった。 後半の「東京八景」「帰去来」「故郷」はかなり自伝色の濃い短編。太宰のダメっぷりには「あちゃー」となるけれど、こうも己のダメっぷりを曝け出されると、責めようがないですね。そうした態度は潔くもあるけれど、卑怯な感じもして、そこが太宰を好きだと手放しで言えない所以なのかもしれません。とはいえ、昔ほど抵抗がなくなったのは、自分にも潔さと卑怯さがあると自覚するようになったからなのかもしれません。 ベストは「駆け込み訴え」。ユダは何故キリストを売ったのか、ユダの捲し立てるような訴えで書かれています。底なしの愛が基盤となっている憎しみほど厄介なものはない。とにかくテンポが良いので引き込まれます。 ファイティング寿限無(立川談四楼/新潮社)
2009.04.18 (Sat)
売れない駆け出しの落語家が、ある日ボクシングジムのドアを叩く。「ボクシングも出来る落語家」で売り出せば芸人として売れるんじゃないかという腹積もりが、あれよあれよと勝ち進み…
読むまでは落語家がボコボコになりながらも何とか一人前のボクサーへと成長していく話かと思っていたら、案外強い。というか、トントン拍子に勝ち進んでしまうのです。そんな都合のいい話はないよなーと思いたくなりますが、肝心なのは主人公はあくまでも「落語家」として名を成したい、ボクシングはあくまでもその手段と考えている点。 自分は何者なんだ、何がしたいんだ…と悶々としつつも、対戦相手に向かっていく姿に、思わず引き込まれてしまって、気が付けば一気読みでした。結構ベタな展開だし、クサいんだけど、面白いです。 オリガ・モリソヴナの反語法 (米原万里/集英社文庫)
2009.04.05 (Sun)
米原さんが少女時代を過ごしたチェコのソビエト学校にいた教師のエピソードを元にした小説です。強烈な個性を発する舞踊教師オリガ・モリソヴナの謎に満ちた半生を、三十数年経ってモスクワを訪れた主人公が、当時の同級生と共に辿っていく、ミステリーのような話。
スターリン体制のソ連…恐ろし過ぎます。その不気味さ、おぞましさがオリガやその周辺にいた人々の謎を一つ解く毎に浮かび上がってきて、ゾッとなって打ちのめされそうになります。しかし絶望の一方で、笑い、喜び、希望も共に語られ、単に悲惨なだけでなく強かさに満ちた話になっているのが凄い。 久々に読んだ後呆然となりました。「タイトルで損している」と対談や解説で言われていますが、でも読んだ後はこれしかない! というくらい作品を表していると思います。一応小説なんですが、徹底した取材、膨大な資料に基づく情報量のせいか、ノンフィクションに近いです。そして、何といってもキャラクターが魅力的なのが良い。 いやー、やっぱり米原さんの本は面白い。だからこそ、早くして亡くなられたのが惜しい…。 行人 (夏目漱石/新潮文庫)
2009.03.31 (Tue)
久々に再読。
数年前に読んだ時は、自分自身が人間不信気味で一郎の狂気に共感してしまったものだけれど、今回はそんなこともなく、物語と距離がありました。 というか、こんな話だったっけ? 一郎兄さん、もっと色々やらかしていたような気がするのですが。あと、一郎夫妻に娘がいたことも完全に失念していた。 直に関する描写には、何か悪意すら感じられるなぁ…。まぁ、あれを意図的にやっているとすれば、相当の悪女ではあるのですが、もしかすると本当に表現下手なだけかもしれないし。でも、やはり怖いよ直さん。漱石の「女性に対する恐怖心、不信感」を体現しているようなキャラクターだと思った。 日本文学を読むのも久々だったせいもあるだろうけれど、ことの他「関係」が印象に残った。相手にとって、自分はどういう立場を持ち、どういう影響力を持ちえるのか、また相手からどんな影響を受けるのか、登場人物たちは常にそのことを意識する。これは海外文学の登場人物には希薄な思考だと思う。 小さな男 * 静かな声(吉田篤弘/マガジンハウス)
2009.02.08 (Sun)
日々瑣末なことに思索を巡らし、自ら百科事典を作ることを第二の職業と称する小さな男。日曜深夜に思ったことをつらつら話すラジオ番組「静かな声」のパーソナリティ。繋がり得ないはずの彼らの日常が、ふとした偶然で繋がった時、思いもしない変化が訪れる。
久し振りに、日本の現代作家の作品を読んだ。 雑誌の紹介欄に「通勤中に読むのにオススメ」とあったので、通勤中に読んでいた。確かに、一つ一つの章が短いので通勤向きだった。内容も重くないけれど、読ませるところはちゃんとあるので短時間でも読み易い。 おそらく三十代くらいの独り身の男女の、とりとめない独白を淡々と聴いている感じのストーリー。生活感はあまりないが、浮世離れしている訳ではない。「小さな男」は何となくニコルソン・ベイカーの『中二階』を思い出した。さすがに注釈は付いていないが。 心揺さぶられたり、色々考えたりすることはないけれど、偶にはこういう話を読むのも楽しい。 |